求職者支援資金融資はハローワークの職業訓練に関連した融資で、利用するには様々な要件がありますが、生活費に困っている求職者にとって有用な制度となっています。
しかし、支給制度ではなく貸付制度であるため、審査基準や返済について不安を感じる人もいると思います。
この記事では、求職者支援資金融資について、以下の項目を解説していきます。
- 求職者支援資金融資は職業訓練中受講給付金が受ける予定の人で、個別の要件を認められた場合に融資される
- 職業訓練受講給付金における特定求職者の要件や支給要件は、実質的に求職者支援資金融資の要件にもなる
- 貸付金額は配偶者等がいる場合が月額10万円、それ以外の場合が月額5万円と上限が異なる
- 貸付は職業訓練の受講予定訓練月数を乗算した金額が一括でハローワーク指定の労働金庫へ振り込まれる
- 手続きはハローワークと指定の労働金庫でそれぞれ行う
- ハローワークで融資の要件を認められても、労働金庫の審査で落ちる可能性がある
- 返済は基本的に貸付日から5年以内で元利均等返済が採用されている
- 職業訓練の開始から終了月の3ヶ月後の末日までは元金据え置き期間となる
- 職業訓練を途中で辞める場合、ハローワークの届け出と労働金庫での契約変更が必須
- 職業訓練受講給付金の不支給や不正行為を行うと、直ちに債務残高の全額一括返済しなければならない
- 金利は消費者金融や銀行よりも低めの設定である
職業訓練を受ける予定がある人は、参考にしてみてください。
求職者支援資金融資は職業訓練受講給付金では足りない場合に融資される
求職者支援資金融資は、職業訓練中に支給される職業訓練受講給付金を受ける予定がある人が融資を受けられる求職者支援制度の1つです。
融資の前提となる職業訓練受講給付金は生活費の補助を目的として支給されますが、養っている家族の人数や訓練前の貯金状況によっては、それでも生活が厳しい場合があります。
職業訓練中も条件さえ満たしていればアルバイト等で収入を得られますが、その場合は職業訓練受講給付金が受けられないため、制度を利用する場合は実質的に働けなくなります。
そのような状況で職業訓練受講給付金のみでは生活費が足りない時に、補助的に融資されるのが求職者支援金融資です。
支援制度となっていますが、消費者金融や銀行と同じ融資であるため、最終的には返済しなければいけません。
しかし、他の企業で借り入れするよりも負担の少ない条件で融資されるため、生活費で困っている場合は有用な制度となっています。
職業訓練受講給付金はハローワークで公的職業訓練期間中に受給できる
職業訓練とは、仕事に必要な知識やスキルを習得するための訓練を基本無料で受けられる制度であり、ハロートレーニングとも呼ばれています。
制度全体では様々な支援を行っていますが、中心となるのは公的職業訓練と求職者支援訓練の2つです。
対象 | 対象 | 受講期間 |
---|---|---|
公的職業訓練 | 主に雇用受有者を対象に、国や都道府県が運営する機関で訓練を受けられる | 3ヶ月~2年 |
求職者支援訓練 | 主に雇用保険を受給できない人を対象に、民間教育訓練機関等で訓練を受けられる | 2ヶ月~6ヶ月 |
この中で、以下の要件を満たす特定求職者を対象に、一定の要件を満たした場合に受給できる求職者支援制度が職業訓練受講給付金です。
- ハローワークで求職の申し込みをしている
- 雇用保険被保険者や雇用保険受給資格者でない
- 労働の意思や能力がある
- 職業訓練を行う必要があるとハローワークが認める
求職者給付金の内容は職業訓練受講手当と通所手当、寄宿手当の3つに分かれています。
職業訓練受講給付金 | 支給額 |
---|---|
職業訓練受講手当 | 10万円 |
通所手当 | 職業訓練実施施設までの通所経路に応じた所定の額(最高42,500円) |
寄宿手当 | 月10,700円 |
職業訓練受講給付金の支給要件については、以下の7つを全て満たしている必要があります。
- 求職者の収入が月8万円以下
- 世帯(同居または生計を一にする別居の配偶者、子、または父母のいずれか)全体の収入が月25万円以下
- 世帯全体の金融資産が300万円以下
- 現住所の住まい以外に土地や立てもを所有していない
- 職業訓練の実施日に全て出席している
- 世帯の中で給付金の受給を受けながら訓練を受けている人がいない
- 過去3年以内に不正行為による特定の給付金を支給していない
過去に職業訓練受講給付金を受給している場合は、上記に加えて前回の受給から6年以上経過していなければ受給できません。
職業訓練受講給付金の手続きは、最寄りのハローワークに行って、以下の流れで進めていきます。
- 住所を管轄するハローワークで求職者支援制度の説明を受ける
- ハローワークで職業相談を受けつつ、職業訓練給付金の事前審査の説明と審査の必要書類を受け取る
- 職業訓練のコース申し込みと職業訓練受講給付金の審査の申し込みを同時に行う
- 筆記試験や面接などの訓練実施機関が行う選考を受験する
- 合格した場合はハローワークで就職支援計画を作成し、交付される
- 支給申請の説明を受けて、必要書類を受け取る
- 訓練が受講開始され、ハローワークで毎月1回の職業相談を受ける際に、その都度支給申請を行う
事前の審査が完了した後も、月ごとの職業相談の際に支給申請を行う必要があります。
求職者支援資金融資は職業訓練受講給付金の受給が前提となるため、特定受給資格者の要件や支給要件は、実質的に求職者支援資金融資の要件にもなっています。
求職者支援資金融資の貸付金額は1万円単位が月額で融資される
求職者支援融資金で融資される貸付金額は、配偶者などの家族がいる場合とそれ以外の場合で、月額あたりの上限が変わってきます。
対象 | 貸付金額 |
---|---|
同居または生計を一にする別居の配偶者、子、または父母のいずれかがいる場合 | 月額10万円(上限)×受講予定訓練月数(最大12ヶ月) |
上記以外の場合(単身者など) | 月額5万円(上限)×受講予定訓練月数(最大12ヶ月) |
月額は1万円単位で融資されて、求職者の金銭状況や審査の結果から金額が決まるため、必ずしも上記の上限額になるわけではありません。
受講予定訓練月数は、貸付の申請を行った時点で、職業訓練受講給付金を申請対象となる訓練期間を指しています。
以下は同居者がいる求職者が2ヶ月間の求職者支援訓練を受けて、職業訓練受講給付金の月額が上限額だった場合の一例です。
職業訓練受講給付金 | 10万円 |
---|---|
求職者支援資金融資 | 10万円×2ヶ月=20万円 |
合計 | 30万円(1ヶ月あたり15万円) |
求職者支援資金融資では、貸付金額が一括で融資されるため、職業訓練受講給付金の支給と同時に合計額分のお金が手元に入ります。
ただし受講予定訓練月数は最大12ヶ月と定められているため、同一の受講予定訓練月数が12ヶ月を超える場合は、経過するまでに再度手続きを行う必要があります。
求職者支援資金融資はハローワークと指定の労働金庫で手続きを行う
求職者支援資金融資の手続きはハローワーク主体で行われますが、審査及び融資を行うのは労働金庫であるため、一部の手続きは労働金庫で行う必要があります。
手続きの主な流れは以下の通りです。
- ハローワークで求職者支援資金融資を利用する理由などを確認し、申請を行う
- 融資の要件を満たしていた場合、求職者支援資金融資要件確認書が交付される
- 職業訓練受講給付金の支給が決定する
- 必要書類を持参してハローワークが指定する労働金庫で口座開設など貸付の手続きを行う
- 手続きした後、労働金庫による審査が行われる
- 審査に通過すると、求職者支援資金融資分は労働金庫の口座に一括で振り込まれる
融資の要件を満たしているか判断するのはハローワークですが、実際に融資するかの判断は労働金庫となります。
ハローワークで要件確認書が交付されなければ手続きは進められない
求職者支援資金融資の手続き全体で必要な書類は以下の3つです。
- 本人確認書類
- 求職者支援資金融要件確認書
- 職業訓練受講給付金の支給を証明できるもの(給付金支給記録の写しなど)
ハローワークは職業相談を受けるために個人情報などは既に教えていますが、労働金庫では申請者が本人であるか照らし合わせるための書類が必要となります。
本人確認書類については、運転免許証などを自分で用意できますが、残りの2つはハローワーク内での手続きが進まないと発行されません。
求職者支援資金要件確認書は、手続きの最初に以下の項目を確認した上で、要件を満たしていた場合に支給されます。
- 貸付を希望する理由が正当である
- 貸付金を返済する意思がある
- 暴力団ではない
一方職業訓練受講給付金の支給を証明できるものは、具体的な書類を指定していませんが、例としては給付金支給記録の写しが挙げられています。
何を持参すべきかわからない場合は、労働金庫へ行く前にハローワークで聞いておきましょう。
ハローワークで認められても労働金庫の審査に落ちる可能性はある
求職者支援資金融資の貸付は、ハローワークが指定する労働金庫の本人口座への一括振り込みに限られていて、例外は認められていません。
そのため、指定の労働金庫の口座がない場合は貸付手続きを行う際に、口座開設の手続きも必要となります。
過去に自動車ローン等で労働金庫を利用している人でも指定の労働金庫でない場合は、新規で口座開設する必要があるため、本人確認書類等を忘れないようにしましょう。
労働金庫での手続きが完了すると審査が行われますが、通常のローンも含めて労働金庫での審査は、最低でも1週間程度の時間を要します。
手続きを行った時期や申請者の状況によっては1ヶ月近く審査がかかる可能性もあるため、基本的にはすぐに結果が出る審査ではないと考えておきましょう。
また、労働金庫の審査は融資の要件以外の項目も確認されます。
そのため、ハローワークで融資の要件が認められている場合でも、必ず融資されるわけではありません。
労働金庫における審査では、クレジットヒストリーとも呼ばれる信用情報も確認されます。
信用情報とは、過去のクレジットカードや消費者金融等での借り入れを行った利用履歴です。
仮に過去の返済で遅延やそれに伴う罰則金を発生させている場合は、融資に対する返済能力について、疑いを持たれる可能性があります。
この信用情報の項目はハローワークでは確認されないため、労働金庫の方で新たに発覚して、結果的に審査へ落ちてしまうのです。
一方で、求職者支援制度としての融資であるため、収入を得られない状況での返済能力については加味されなくなっています。
求職者支援資金融資は職業訓練の継続状況によって返済タイミングが変わる
求職者支援資金融資の金利及び遅延損害金は、以下の通りです。
貸付利率 | 年3.0% (信用保証料0.5%を含む) |
---|---|
遅延損害金 | 遅延している元金に対して年14.5% |
また、求職者支援資金融資の返済方法については、以下の基準が設けられています。
- 約定返済日は貸付を行った月の翌月末以降の毎月の末日
- 返済期限は貸付日から5年以内(貸付金額が50万円以上の場合は10年以内)
- 訓練終了月(途中で訓練を辞めた場合は辞めた日が属する月)の3ヶ月後の末日までは元金据え置き期間となり、利息のみ返済する
- 訓練終了月の4ヶ月後の末日以降は元利均等払いで返済する
- 最終弁済時の年齢は65歳
- 返済金は労働金庫の口座から自動引き落としされる
基本的には5年以内に返済していきますが、訓練期間中は貸付金額そのままに、利息分のみを返済していきます。
元利均等返済は返済額が一定で1ヶ月あたりの金銭的な負担が少ない
求職者支援資金融資で採用されている元利均等返済は、元金と利息を合計した額を返済期間で割って、毎月一定額で返済していく方式です。
一定額になっているため、1ヶ月あたりの返済金額は抑えられますが、返済期間が長くなると他の返済方式よりも利息が増加する可能性があります。
また、求職者支援資金融資では元金据え置き期間が必ず適用されるため、該当する期間内ではさらに1ヶ月あたりの返済額は少なくなります。
以下は、同居者がいる求職者が2023年1月から12月までの12ヶ月間の求職者支援訓練を受けて、求職者支援資金融資の120万円を5年間で返済する場合の例です。
期間 | 返済額 | 1ヶ月あたりの返済額 | 元金 | 利息 |
---|---|---|---|---|
2023年1月から翌年の2024年3月まで(訓練終了月の3ヶ月後末日) | 年36,000円 | 3,000円 | 0円 | 36,000円 |
2024年3月から翌年の2025年3月まで | 年263,052円 | 21,921円 | 229,336円 | 33,716円 |
2025年3月から翌年の2026年3月まで | 年338,736円 | 28,288円 | 313,909円 | 24,827円 |
2026年3月から翌年の2027年3月まで | 年338,736円 | 28,228円 | 323,456円 | 15,280円 |
2027年3月から翌年の2028年1月まで | 年338,740円 | 28,228円 | 333,299円 | 5,441円 |
元利均等返済が適用されている期間では1ヶ月あたり2万円以上ですが、利息のみを返済する期間では1ヶ月あたりの3,000円で済みます。
実際の返済期間は申請者の金銭状況等から決定されますが、基本的には無理のないペースで返済できるように設定されます。
返済についても労働金庫の口座を指定されているため、職業訓練後に就職して給料が別の口座に振り込まれる場合は、口座にお金を入れておくのを忘れないようにしましょう。
返済が遅れて閉まった場合は元金と利息の返済とは別に遅延損害金が発生するため、多額の支払いを求められてしまいます。
職業訓練を辞めた場合は手続きなしだと全額一切返済しなければならない
求職者支援資金融資の返済期間や金利について、職業訓練期間中に就職先が決まるなどの理由から途中で辞める場合も、訓練を最後まで続けた人とほぼ同じ条件が適用されます。
しかし、職業訓練を途中で辞める場合は、辞めた日から1ヶ月以内にハローワークへの届出と労働金での契約変更の手続きを行わなければいけません。
この手続きを行わなかった場合、債務残高の全額を一括返済する必要があります。
職業訓練受講給付金の要件である職業訓練の実施日の全出席は、求職者支援資金融資にも当てはまるため、途中で辞めた場合は要件から外れた扱いとなります。
手続き後は、如何なる理由で辞める場合でも一括返済は求められないため、辞めてしまった時は早めにハローワークに届け出しましょう。
不正受給は全額一括返済と詐欺罪による処罰対象になる可能性がある
求職者支援資金融資は以下の要件に当てはまった場合、直ちに債務残高の全額を一括返済しなければいけません。
- 就職支援拒否による給付金の不支給
- 不正受給による給付金の不支給
- 必要書類の虚偽記載などの貸付にかかわる不正
職業訓練受講給付金の受給が前提になっているため、何らかの理由で給付金が不支給となった場合は、求職者支援資金融資にも影響が出てきます。
給付金や融資は労働の意思や能力がある人に対して行う支援であるため、普段のハローワークにおける職業相談を受けないなどの行為は、就職支援拒否にあたります。
一方で、手続きでの虚偽記載や書類の偽造などを行って、給付金や融資を受け取るのは不正受給です。
その場合は全額一括返済に加えて、詐欺罪などの犯罪行為として処罰される可能性があります。
求職者支援資金融資は消費者金融や銀行よりも金利が低めの設定
求職者支援資金融資は要件の多さや手続きが完了するまでの手順が多いため、利用するのが億劫に感じる人もいると思います。
しかし、基本的には働けない職業訓練期間中において、消費者金融や銀行などから融資を受けるのは非常に難しくなります。
労働金庫と同様に消費者金融や銀行でも審査が行われますが、そちらの審査では申請者が職業訓練中という情報は伝わりません。
そのため、安定した収入がない人物として支払い能力を疑われる可能性が高くなるのです。
また、仮に消費者金融や銀行の審査に通って融資されたとしても、金利面で比較した場合に求職者支援資金融資の方が負担が軽くなります。
融資 | 金利 |
---|---|
求職者支援資金融資 | 年3.0% |
消費者金融 | 年3.0%~年18.0% |
銀行 | 年1.5%~年14.5% |
実際の金利は前後する可能性がありますが、消費者金融や銀行を初めて利用する場合は、基本的に上限金利の方が適用されます。
銀行の下限金利は求職者支援資金融資よりも低い設定ですが、実際に適用される条件に当てはまる人は限られているのです。
仮に求職者支援資金融資の審査に通らなかった場合は、他の融資手段を検討する必要が出てきますが、審査前の段階であれば求職者支援資金融資の審査から試してみましょう。
求職者支援資金融資は労働金庫の審査から返済義務のある支援制度
求職者支援資金融資は職業訓練受講給付金のみでは生活費が足りない場合に、補助的に融資される求職者支援制度です。
融資されるにはハローワークで求職するなどの要件を満たす必要があり、貸付という性質上後に利子付きで返済しなければいけません。
また、手続きの過程では貸付を行う労働金庫での審査に通過する必要があり、ハローワークでの手続きで要件を認められても審査で落ちる可能性があります。
しかし、職業訓練中で働けない中でも融資される制度で、消費者金融や銀行よりも低めの金利設定で生活費を借り入れできるのは大きなメリットです。
職業訓練を受ける前に生活費の不安がある場合は、職業訓練受講給付金と共に求職者支援資金融資も説明や必要書類について聞いてみましょう。